「大林宣彦監督セレクション」から

 11月に開催された広島国際映画祭2019で、「大林宣彦監督セレクション」と題して四作品が上映された。

 『野のなななのか』(2014年)、『異人たちとの夏』(1988年)、『野ゆき山ゆき海べゆき』(1986年)、『あした』(1995年)。

 『野のなななのか』(2014年、平成26年、芦別映画製作委員会、PSC、171分、カラー、Blu-ray
 出演、品川徹、寺島咲、常盤貴子山崎紘菜

 北海道、芦別市。医師を辞めて古物商を営む鈴木光男(品川徹)が92歳で他界した。離れ離れに暮らしていた鈴木家の人々が光男の葬儀のために古里に集まり、そして、謎の女・清水信子(常盤貴子)も舞い戻る。死者と生者、過去と現在が入り交じり、戦争の時代の光男の過去が浮かび上がる・・・。

 『野ゆき山ゆき海べゆき』(1986年、昭和61年、日本テレビ放送網、ATG、バップ、135分、カラー、35ミリ)
 出演、鷲尾いさ子佐藤浩市林泰文三浦友和

 原作は、佐藤春夫の小説『わんぱく時代』。主人公の総太郎(林泰文)は、年上の少女・お昌ちゃん(鷲尾いさ子)に思いを寄せ、ガキ大将たちと戦争ごっこを繰り広げる。尾道や鞆にロケーションし、戦争が影を落とす時代の少年の日々を描く。

 22日の『野のなななのか』、23日の『野ゆき山ゆき海べゆき』の上映後に監督のトークがあった。
 各回とも、ステージで司会者の質問に監督が答える形式でのトークであった。
 『野のなななのか』の上映後は、大林宣彦監督と映画に出演した芦別の人と女優の常盤貴子さんが登壇。
 『野ゆき山ゆき海べゆき』の上映後、最後部の後ろの通路に目と鼻の先に監督が座っておられた。ステージに移動して、ステージで司会者の質問に答えながらのトークショーがはじまった。ゲストに常盤貴子さんが登壇された。
 
 以下、大林宣彦さんの談話メモから。

 

 たまたま個人的に映画をつくりはじめた。

 昔から、やろうとしていたことは何も変わっていません。
 映画はみんな自分ごとなんですよ。

 インディーズにこだわってつくってきた。

 過去とはちがったことをやる。

 未来の自由をうしなってはだめだぞ。

 映像で文学をつくる。

 映像純文学というジャンルをつくる。
 

南伸坊著『私のイラストレーション史』2

 サザンカ山茶花)の花が満開である。遠くから見ると、葉に白い雪が積もったように見えた。根元は、散った花びらが白く一面に敷き詰められている。八重咲のサザンカ山茶花)がちょうど見頃を迎えている。

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 亜紀書房の新刊、南伸坊著『私のイラストレーション史』を読む。

 1960年から1980年までの著者自身のクロニクル(年代記)的な回顧録である。

 もくじ
 小6から中3まで1959――1962
 工芸高校と浪人時代1964――1968
 美学校時代1969――1970
 『ガロ』編集者時代1972――1980

 南伸坊さんが六〇年代と七〇年代に実感した目撃した私的な「日本のイラストレーション史」を書き留めている。
「工芸高校と浪人時代」で、南伸坊さんの高校二年生だった1966年に雑誌『話の特集』が創刊された。
 一部引用してみると、
 

 ボクらは高校二年生だった。
 一九六六年、この年から横尾さんの怒濤(どとう)の進撃がはじまるのだったが、ボクが感じていたのは、この年こそが憧れの和田誠さんが、日本のイラストレーションの真のリーダーであったことがはっきりした年だということだった。
 イラストレーションだけではない。グラフィックデザインエディトリアルデザイン、写真、雑誌文化のほんとのリーダーは和田誠だった。
 すなわち『話の特集』の創刊である。私が生涯でもっとも心を動かされた創刊号だったと思う。アートディレクターにして、エディトリアルデザイナー、そして影の編集長、それが和田さんだったのだ。それは創刊号を手にとって、すぐにわかった。こんな形の雑誌を作れるのは和田さんしかいない!と高校生は確信していた。
 のちに編集者になったことも、宮武外骨に興味を持ったことも、文章を書くようになったことも、イラストレーターになったこともすべてはこの『話の特集』にはじまっている。  71ページ

 

 

私のイラストレーション史

私のイラストレーション史

  • 作者:南 伸坊
  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2019/05/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

南伸坊著『私のイラストレーション史』

 ハクモクレン(白木蓮)の芽が、青空の方へ伸びて、寒風に吹かれゆれている。

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 先日、書店のブックフェアに足を止め、亜紀書房朝日出版社の共同フェアのブックリストの小冊子を手に取りました。南伸坊著『私のイラストレーション史』は、亜紀書房刊の本であったのですね。美学校時代の講師陣や雑誌「話の特集」のアートディレクターだった和田誠さんから受けた影響が語られています。

 美学校をめぐるクロニクル的な本がもう一冊、今年は刊行されました。

 美学校編『美学校1969-2019 自由と実験のアカデメイア』です。

 これは、晶文社から出ました。

 美学校の入間分校の写真が掲載されていました。これは、中村宏の油彩画教室の写真でしょうか。

 

私のイラストレーション史

私のイラストレーション史

  • 作者:南 伸坊
  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2019/05/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

美学校1969-2019: 自由と実験のアカデメイア

美学校1969-2019: 自由と実験のアカデメイア

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2019/08/14
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

枯るるは枯れ青きは青き草小春

 サザンカ山茶花)の花が咲き、初冬の日の光を浴びている。紅い花びらが鮮やかだ。

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 「濃紅葉をさしはさみけり薮の家」

 「崖紅葉濃ゆきにひたと御堂あり」

 「黒ずみて強き紅葉や紅葉中」

 「枯るるは枯れ青きは青き草小春」

 松本たかしの昭和十二年(1937年)の俳句で、「鎌倉十二所 四句」という前書きがある。

 四句目の「枯るるは枯れ青きは青き草小春」の句は、小春という冬の季語があるので、鎌倉の十二所を立冬が過ぎて春のようなあたたかい日に詠んだ句であろうか。

手の薔薇に蜂来れば我王の如し

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 公園に黄色いバラが咲いていた。風に吹かれてゆれている。立ち見の人の目がバラにそそがれている。

バラ科バラ属の低木の総称。特に、観賞用に改良された園芸品種。枝にとげがあり、蔓(つる)状となるものもある。葉は羽状複葉。萼(がく)・花びらとも五枚が基本で、重弁もある。花は香りが強く、咲く形から抱え咲き・剣弁咲き・高芯咲き・平咲きなどとよぶ。色は紅・赤・黄色などさまざまあるが、青色はない。主に北半球の温帯・冷帯に分布。バラ科双子葉植物にはバラ属のほかサクラ属・シモツケ属・ナシ属など約100属が含まれ、約2000種が世界各地に分布。ローズ。いばら。しょうび。そうび。  『大辞泉

 大辞泉の引用句は、「手の薔薇に蜂来れば我王の如し」(中村草田男

 

 毎日新聞の「今週の本棚」で、書評執筆者が選ぶ「2019 この3冊上」を見ました。

 書評執筆者では、井波律子、鹿島茂川本三郎の各氏の「この3冊」に注目。

 井波律子氏の選んだ一冊が、『湯けむり行脚 池内紀の温泉全書』(山川出版社)でした。《やすらぎと心身の解放を求める温泉行脚の醍醐味(だいごみ)を、情感ゆたかに綴(つづ)った秀作である。》

 鹿島茂氏の選んだ三冊は、

 『古本屋散策』小田光雄論創社

 『江藤淳は甦(よみが)える』平山周吉(新潮社)

 『パリ左岸 1940―50年』アニエス・ポワリエ(白水社

 川本三郎氏は、『ヒトラーの時代』池内紀中央公論新社)、『74歳の日記』メイ・サートンみすず書房)を選んでいました。《変わらぬ一人暮らしの豊かな孤独に魅了される。》

 

PR誌から

 新潮社のPR誌「波」12月号の筒井康隆の「南蛮狭隘族」、川本三郎荷風の昭和」第十九回・荒川放水路のほうへ、などを読んだ。

 昭和六、七年ごろ荷風がよく足を運んだ場所、荒川放水路をめぐる荷風の随筆を参照しながら川本三郎さんの描く文学散歩がとても興味深い。

 荒川放水路の風景に心惹かれた荷風の『断腸亭日乗』を小津安二郎が読んでいて『東京物語』に堀切橋付近の荒川土手を登場させたのではないか、と述べている。

 雑誌「望星」12月号の「平川克美責任編集——映画について私が語ること」という特集記事の対談、映画は「寄り道」が楽しい(川本三郎)でも語られています。

http://www.tokaiedu.co.jp/bosei/pdf/1912_toku2.pdf

鴨向きをかへてかはしぬ蘆の風

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 水辺にカルガモの群れが見られる。ゆるやかな動きで水面を移動していた。ヒドリガモより少し大きく見える。

カモ科の鳥。全長約六〇センチ。全体に黒褐色で、くちばしの先が黄色く、雌雄同色。東アジアに分布し、日本では留鳥で、川や池沼にすみ、都市公園でも繁殖している。なつがも。  『大辞泉

 

 「水鳥の争ひ搏ちし羽音かな」

 「鴨向きをかへてかはしぬ蘆の風」

 松本たかしの俳句です。 

 

 「一冊の本」12月号の新刊案内に長嶋有の『俳句は入門できる』という新書を目にしました。その紹介文から、一部引用。

《なぜ、俳句は大のオトナを変えるのか!?  俳句でしかたどりつけない人生の深淵を見に行こう。》

 

俳句は入門できる (朝日新書)

俳句は入門できる (朝日新書)