寒梅に蒔絵師の根(こん)つづくかな

 晴れて暖かい。最高気温12℃。まだつぼみが多いのだが、紅梅や白梅が咲きはじめていて、花からの良い香りが漂って来る。

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 「寒梅に蒔絵師の根(こん)つづくかな」
 「梅寒し研げば現る金蒔絵」


 松本たかしの昭和十九年(1944年)の俳句で、「上村占魚に与ふ」という前書きがあります。

PR誌の本の広告から

 出版社のPR誌の「一冊の本」2月号に、池澤夏樹の新刊の広告が掲載されていた。

 『いつだって読むのは目の前の一冊なのだ』という本の広告である。

 読書人必携の書評集成という。

《辣腕の書評家にして口達者な本のセールスマンが広大な読書の世界へ分け入り、2003~2019年という時代の大きな変化のなかで選び抜いた逸品、全444冊!》

 

いつだって読むのは目の前の一冊なのだ

いつだって読むのは目の前の一冊なのだ

  • 作者:池澤 夏樹
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2019/12/20
  • メディア: 単行本
 

 

くぐり入り梅の枝垂の中に在り

 梅が咲きはじめた。近くへ寄り眺めると花の香りがほのかに漂っている。良い香りだ。

 梅の花へカメラを向ける人々の姿が花越しに見え隠れする。

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 「紅梅の下紅梅の鉢を置く」

 「歩みよりくぐり入りけり枝垂梅」

 「くぐり入り梅の枝垂の中に在り」

 松本たかしの昭和十七年(1942年)の俳句です。

水仙や古鏡の如く花をかかぐ

 暖冬がつづいている。水仙スイセン)の花が見頃を迎えています。

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ヒガンバナ科多年草。早春に、鱗茎(りんけい) から一本の花茎を出し、白や黄色で中央に副花冠をもつ花を横向きにつける。葉は根生し、平たい線形。耐寒性で栽培に適し、観賞用とする。らっぱ・口紅・房咲き・八重咲きスイセンなどの品種がある。主に地中海沿岸地方の原産。本州以西の海岸に自生するものは、野生化したものといわれる。  『大辞泉

 「水仙や古鏡の如く花をかかぐ」

 「水仙の途絶えて花をつづけけり』

 「水仙を活けて鼓をかざりけり」

  松本たかしの俳句です。

回顧の人、山田稔の原点

 青空を背にしてハクモクレン(白木蓮)のつぼみが膨らんでいる。

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 先日、図書館で図書新聞を見た。1月11日号(3430号)である。
 「トークイベント 山田稔著『門司の幼少時代』(ぽかん編集室)をめぐって」というタイトルで一面から三面まで掲載されていた。京都の恵文社一乗寺店COTTAGEで山田稔氏と聞き手の服部滋氏と澤村潤一郎氏が出席したトークイベントの模様を伝える記事である。

 回顧の人、山田稔の原点

 一部引用すると、

山田 (前略)『門司の幼少時代』を出来上がってから読み返してみると「ああ、ここには現在のわたしが全部入っている」と痛感しました。ただ、そのとき「スカトロジア」というのは頭にありませんでしたが(笑)。
服部 詩人の平出さんが門司生まれで、小倉高校の出身ですね。平出さんの書かれる門司は自分の門司とは違う、と仰ったとうかがいましたが、どのようなところでしょうか。


いまも存在しつづける少年の姿

服部 門司についてモダニズムとか、ハイカラな都市だったという話が出ましたが、港町で育った作家にはある種の共通点があるのではないかと思っています。函館生まれの長谷川四郎さんの、乾いた文章や一種のコスモポリタニズムみたいなところは港町の気風と関係しているのではないでしょうか。

 

 山田稔著『何も起こらない小説』(編集グループSURE)で語られた話と重なるところもありますが、聞き手の服部滋氏と澤村潤一郎氏の質問によって語られた話(回顧談)がとても興味深かった。それと、門司生まれの平出隆さんについて服部滋氏が触れておられた。昨年の夏に『猫の客』という小説を読んだことがあったのでとても親しみを感じた。

 《そのとき「スカトロジア」というのは頭にありませんでしたが(笑)。》とあるのは、『スカトロジア』(福武文庫)のことですね。解説が小沢信男さん。

 

 

シャンパン

 昨年の新刊で、池内紀著『ことば事始め』(亜紀書房)を年末から正月にかけて読んでいました。もう一冊が編集グループSUREの『海老坂武のかんたんフランス料理』でして著者の海老坂さんのフランス料理や草野球チームの話が興味深かったです。サルトルの『家の馬鹿息子』の翻訳裏話なども。フローベールの小説をめぐる黒川創さんとの談話も。

 『ことば事始め』では、「シャンパン」と題したエッセイが印象に残りました。

 さて、今年も未読の池内さんの本を読むことにしましょう。

 

 《姪の結婚式に出たら、乾杯はシャンパンだった。テーブルごとに一本ずつあてがわれ、ボーイさんが栓の針金をほどいて、こころもちコルクをゆるめた。(中略)

 へんな飲み物である。栓を抜くときがいちばんの「ごちそう」で、噴き出す泡が中身なのだ。へんてつもない甘味飲料である。ワインらしからぬ甘さは醸造の最後の段階で砂糖入りの混合液を加えるからで、醸造業者は「門出のリキュール」と称している。そんな異端のワインが、どうして世界中の祝事に欠かせない飲み物になったのだろう? 》 145~146ページ

 《いいことばかりでもなかった。シャンパーニュの人々にとって、ロシア革命は忘れられない出来事だった。ロシア貴族をヨーロッパ最大の上得意としていたからで、革命で一気に大顧客を失った。ロシア共産党シャンパンを排撃して、ウォッカを愛国的な飲み物として推奨した。シャンパンメーカーは ロシア貴族には信用貸しで販路をひろげた。その没落とともに数百万本の売掛金が踏み倒された。》  148~149ページ

 

 

ことば事始め

ことば事始め

  • 作者:池内 紀
  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2019/05/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

www.groupsure.net

特集「南蛮阿房列車」から

 大晦日の31日から年を越し、正月の3日まで四夜連続で、NHKのラジオ番組がありました。関口知宏の朗読で阿川弘之の鉄道紀行文を聴く。

 特集「南蛮阿房列車」<全4回>

 31日、「欧州畸人特急」、「マダガスカル阿房列車」。

 1日、「元祖スコットランド阿房列車」、「カンガルー阿房列車」。

 2日、「夕暮特急」「アステカの鷲」。

 3日、「マッキンレー阿房列車」「ピラミッド阿房列車」。

 テキストは、徳間文庫版の阿川弘之著『自選 南蛮阿房列車』から。

 新潮文庫版の『南蛮阿房列車』と『南蛮阿房第2列車』から阿川さんが自選したのが『自選 南蛮阿房列車』になります。*1新潮文庫版の『南蛮阿房列車』に所収の「欧州畸人特急」が大いに笑えます。同行人の北杜夫遠藤周作の描写が面白い。パリから南のツールーズまでを阿川弘之が鉄道と飛行機で日帰りで往復するのですが、遠藤周作北杜夫を誘ったが、二人から断られてしまい、阿川さんは一人で出かけた。

参照:「欧州畸人特急」、「マダガスカル阿房列車

www.youtube.com

 

自選 南蛮阿房列車 (徳間文庫)

自選 南蛮阿房列車 (徳間文庫)

 

 

 

*1:「ピラミッド阿房列車」は、『南蛮阿房列車』と『南蛮阿房第2列車』には未収録。