晴れて暖かい日がつづく。梅の花が満開になった。近寄ると花から良い香りがする。
松本たかしの昭和十七年(1942年)の俳句に、
「紅梅の残りし花に一茶亭」
前書きは、「六義園」とある。
「山浅く大瀧かかる梅花村」
「瀧川の流れ出てすぐ梅花村」
前書きは、「袋田の瀧 二句」とある。
渡り鳥のヒドリガモを見かける。小さな群れで水面を滑るように移動していた。
カモ科の鳥。全長四八センチくらい。雄は頭部が赤茶色で額が黄白色、胸がぶどう色、背と側面が灰色。雌は全体に褐色。ユーラシア北部で繁殖。日本では冬鳥で、港湾・湖沼でみられ、雄はピューと笛のような声で鳴く。あかがしら。 『大辞泉』
「南国の南縁の梅今盛り」
「旅疲れ溶くるがごとき梅日和」
「春潮や袋の如き浦戸湾」
「長閑さにまだゐる鴨や浦戸湾」
松本たかしの昭和十九年の俳句で、「高知市町田雅尚居滞留 十四句」という前書きがある。冒頭から選んで四句を引用してみた。
十三句目の句は、
「梅林に落つる日城を染むるなり」
十四句目の句は、
「逗留や再び遊ぶ城の梅」
「霞む日の天守閣上の人となんぬ」
週刊文春の1月30日号の小林信彦の「本音を申せば」第1046回、「映画をこまかく楽しむために」と題して、「椿三十郎」について書いているのだが、入江たか子について記している箇所があった。
《てっとり早くいえば、「椿三十郎」はお家騒動ものである。三十郎はそれをききつけ、入江たか子のために踏み台になったり、(入江たか子は若き黒澤明にとっての大スターだった)、なぜかお家騒動に噛んでいる仲代達矢をにらみつけたりする。この中で三十郎がとなりの家の椿をまとめて小川に流してくれ、というところがあるが、そこは(本当は)真赤になった椿が流れてくるはずだった。今ならなんでもないだろうが、この映画が作られたころは技術的にむずかしかったらしい。この映画が有名になり、大ヒットしたのは、ラストの三船&仲代の対決のせいだ。》
「入江たか子は若き黒澤明にとっての大スターだった」という小林信彦さんの指摘に注目。
城代家老の奥方(入江たか子)とその娘(団令子)が二人並んで小屋の藁(わら)にもたれてすやすやと眠っている。春先の椿が咲く頃の季節を舞台にしているが、一方、外ではお家騒動の真っ最中で男たちが激しい争いを繰り広げている。静と動のこのギャップに見られるユーモア、笑いのセンスにニヤリとする。
入江たか子のそのおっとりした演技が印象的である。
晴れて暖かい。最高気温12℃。まだつぼみが多いのだが、紅梅や白梅が咲きはじめていて、花からの良い香りが漂って来る。
「寒梅に蒔絵師の根(こん)つづくかな」
「梅寒し研げば現る金蒔絵」
松本たかしの昭和十九年(1944年)の俳句で、「上村占魚に与ふ」という前書きがあります。
出版社のPR誌の「一冊の本」2月号に、池澤夏樹の新刊の広告が掲載されていた。
『いつだって読むのは目の前の一冊なのだ』という本の広告である。
読書人必携の書評集成という。
《辣腕の書評家にして口達者な本のセールスマンが広大な読書の世界へ分け入り、2003~2019年という時代の大きな変化のなかで選び抜いた逸品、全444冊!》
梅が咲きはじめた。近くへ寄り眺めると花の香りがほのかに漂っている。良い香りだ。
梅の花へカメラを向ける人々の姿が花越しに見え隠れする。
「紅梅の下紅梅の鉢を置く」
「歩みよりくぐり入りけり枝垂梅」
「くぐり入り梅の枝垂の中に在り」
松本たかしの昭和十七年(1942年)の俳句です。