『痛ましき無関心』

痛ましき無関心

 「アレクサンドル・ソクーロフ監督特集」の一本で、『痛ましき無関心』(1983年、旧ソ連、96分、カラー)を観に寄る。
 出演はラマズ・チヒクヴァゼ、アーラ・オシペンコ、タチヤーナ・エゴーロワ。

 6月プログラムに、 

第一次世界大戦の最中、ショトヴァーとその友人たちは、享楽的な生活を送っていた。異性に夢中で現実を見ようとしない彼らに、やがて悲劇が訪れる。劇作家バーナード・ショウの原作『傷心の家』をソクーロフ監督が映画化した。

 冒頭、バーナード・ショーが家から出て来て語るシーンがある。皮肉屋バーナード・ショーが語っているのは、この映画の原作『傷心の家』の作者ということで、記録フィルムにあったバーナード・ショーの映像をソクーロフが「引用」している。
 もちろんショーが語っているのは英語であるが、この「引用」フィルムはトーキー時代のフィルムだろう。

 この辺は、監督第一作『孤独な声』(1978年)や『ロシアン・エレジー』(1993年)の映像で古いアルバムの写真や古い時代の戦争の記録フィルムをしばしば「引用」する映画手法と共通している。
 もうひとつ、冒頭に日本の着物を着た女とちょん髷(まげ)のかつらをかぶってはっぴを着た男が飛び跳ねるコミカルな舞踊のシーンは印象的だ。
 すり足ではなく、着物を着てバレエのダンスのように天上へと跳躍する身体の動きである。  
 映画は、第一次世界大戦の頃を舞台に奇妙な家で繰り広げられる白昼夢。
 戦争などまるっきり眼中にない生活を送っている登場人物たち。能天気(?)な恋愛遊戯に明け暮れている。
 だが、スクリーンには砲撃音や爆発音が繰り返し聞えて来る。危機感はまったくなし。
 空を飛ぶ巨大な飛行船。第一次世界大戦で使われた戦車、こういった記録フィルムが「引用」される。
 ラスト、だが、彼らのいる奇妙な家が飛行船の爆撃で粉々になるのだった。
 奇妙な登場人物、奇想天外なナンセンス映画。