中村草田男句集「来し方行方」


 アブラゼミを神社の樹木のツガの樹皮に発見した。
 セミの鳴き声はすれども、その姿は見えず。
 ツガの樹皮に溶け込むような翅(はね)の模様や色のため、発見が難しかったのだ。
 外敵から身を守る必要からの適応だろうか。
 

マツ科の常緑高木。福島県以南の山地に自生。樹皮は縦に裂け、葉は短い針状で二列に並んで密生。四月ごろ、雄花と雌花をつけ、球果は下を向く。材は建築やパルプに使われ、樹皮からタンニンをとる。つがまつ、とが。  『大辞泉

 最近、中村草田男句集「来し方行方」を古書店の店頭本から購入した。
 昭和二十二年十二月一日発行。
 発行元、自文堂。定価百円。

 昭和二十年の句に、「来し方行方」と題して、七句がよまれている。(旧字を一部新字にて表記。)


    家族を疎開せしめて約半歳空襲下の東都に自炊生活を送れり。 二句

 黴を拭き日に當て一と日一と日くらす
 己が荷の車ひく日や青山椒
 
    生徒農村通年勤労隊を率ゐて福島県へ出発、東都を去る。
    一句

 焼跡へ梅雨晴の空ひた押しに

    勤労地にて、 四句

 山頂の丘や上なき蝉の声

 蛍火や白き夜道も行路難

 みちのくの蚯蚓短し山坂勝ち

 獅子の仔に似し犬の仔よ暑き頭

来し方行方―句集 (昭和22年)

来し方行方―句集 (昭和22年)