緑金の蟲芍薬のただなかに


 夏至の前後のひと月余りの間は日の出が早く、日没が遅くなる。
 短夜(みじかよ)という言葉がふさわしい時期だ。
 公園の池のハスの葉に、クロイトトンボがいた。糸蜻蛉(いととんぼ)という名前にふさわしく細長いからだである。梅雨時であるのだが、蛙(かえる)の声は聞こえて来ない。
 静かな池にアメンボが、軽やかにスケーターのように水面をすべっているのだった。

 蒟蒻(こんにゃく)のさく薬園のきつねあめ
 蛞蝓(なめくじ)のながしめしてはあゆみけり
 緑金の蟲芍薬のただなかに
 蝉なきて夜を氾濫の水ふえぬ
 ふりつぎて花卉(かき)にいとすむ梅雨湛(たた)ふ*1


 飯田蛇笏の俳句で、昭和13年(1938年)の句である。
 「緑金の蟲芍薬のただなかに」の句の緑金の虫とは、黄金虫ではなかろうか。

*1:花卉(かき)、花の咲く観賞する草花。湛(たた)ふ、水などをいっぱいに満たす。