読書人の雑誌「本」1月号に連載の原武史の「鉄道ひとつばなし」を読んだ。
連載が240回の20周年を迎えて、その特別版「父と鉄道」(上)である。
原武史さんが鉄道好きになったのは、《ひとえに父から受けた影響による。》
その父がどういう経緯で鉄道好きになったかをじっくり聴いたことはなかったそうである。
《そこで小熊英二『生きて帰ってきた男』(岩波新書、二〇一五)にならい、私もまた幼少期から青年期にかけての鉄道体験を語ってもらうことにした。》
1931年生まれの原さんの父の育った最寄の駅は、新橋や市電(後の都電)の停留所の田村町一丁目であった。
浅草に幼い頃祖母に連れられて出掛けた話からはじまり、今回は1945年の五月二十五日の空襲で田村町の実家が消失するまでを書いている。
また、宮脇俊三、英文学者の小池滋、吉村昭の文章などを参照しながら父の青年期までの時代体験を鉄道を軸にして記述する。