吉田健一の『東京の昔』と自転車

 先日、とうとう自転車が壊れてしまったので新車を買った。パナソニックのライトシティS。使い心地は良い。自転車と言えば、吉田健一の小説『東京の昔』はこの自転車をめぐる物語と言えなくもない。不思議な作品だ。1930年代はじめのころの東京を舞台にした小説と言われているが、吉田健一の関心は時代ということよりも時間意識の方に向いている。小説の形を借りて、吉田健一の時間についての素描と言えるかもしれない。『本当のような話』、『瓦礫の中』といった作品でもあまり主題は変わっていない。なかでも『金沢』は文章に自由自在さがある。