「自然」というのは新しい言葉

 午後3時過ぎ、にわか雨あり。その後すぐに晴れ上がる。南よりの風。むし暑い。
 「自然というのは、日本語にはなかった言葉です。」、と多田道太郎は『からだの日本文化』という本で述べる。

 私たちは、個別的に桜とか山桜、ヒヤシンスとかバラといった植物、モグラとかライオンといった動物という言い方はありました。しかし、「自然」というのは新しい言葉です。抽象化された言葉です。自然というふうにひとまとめにして考えること自体、あまり歴史のないことです。   223頁

 江戸時代の終わり頃、幕末のころの写真を見ていると、どうも山に樹木が茂っていないような風景が目に付く。瀬戸内海の港町の鞆、坂本龍馬のいろは丸事件の舞台にもなった港町から見える仙酔島を撮った写真をつぶさに見ると、島に生えている松などの樹木が少ない。ハゲ山に近いのだ。今の私たちの言葉でいう自然が一杯ですねとか、緑が豊かですねというレベルの「自然」の緑の量ではなく、スカスカの緑といった風景写真だった。おそらく、坂本龍馬鞆の浦の港に滞在している間、紀州藩の明光丸と衝突して沈没した、いろは丸の賠償交渉の日々にこのような風景を目にしていたんだなあ。今の仙酔島は緑豊かな島になっている。