満月と歌う人

池を向くカエル

 夕暮れ時、月が東にのぼっていた。満月だ。数日前まで西の空に低く明るく輝いていた金星は雲のためか見えなかった。
 公園の池へ寄り道してみた。あたりは暗くなりかけていた。カエルがコンクリートの縁に池の方を向いてじっとしていた。いままで見たカエルではもっとも大きい。池のカエルは鳴き声は小さく、静かだった。
 池にいると歌声が聞こえて来た。歩いて声の聞こえる方へ行くと、ギターを弾き「馬鹿になれ〜。馬鹿になれ〜。」と歌っている男がいた。「夢みる馬鹿になれ〜。人を愛する馬鹿になれ〜。」と暗がりで譜面を小型の懐中電灯を取り付けて照らしながら、ギターを弾き歌っていた。先日も歌っていた人だった。
 2曲ほど聴いた。歌が終わったあと、聴かせてもらったお礼に拍手をした。
 すると、この人は振り向いて嬉しそうな表情をした。