『素白先生の散歩』と野尻抱影

 野尻抱影の『星三百六十五夜』(中公文庫)を読んでいると、9月4日の「縁日」という文で岩本素白についてふれられている。おや、岩本素白といえば、池内紀編でみすず書房から大人の本棚シリーズで『素白先生の散歩』という本が出ている。http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4622048213.html

 故岩本素白君は国文学者だった。明治生まれの東京っ子らしく、温厚だが潔癖で〝有名人〟となるのを嫌い、残した著書も少い。しかし、その随筆は渋くて美しく、都会でも人の気づかない場末の風物情景を、こくめいに描いたものが多い。
 『街の灯』と題する一篇は特に私などの郷愁をそそる名文で、その一部を抜いてみる。

 と回想して引用文を続けている。ふーむ。抱影先生を散歩していると、「犬も歩けば棒にあたる」ではないが、思いがけない幸運に出合った気分だなあ。