イタリア語版『薔薇の名前』

南天と雪

 朝、外の方でなにやら音がする。雪が屋根から落ちて地面に当たる音のようだ。夜の間に雪が降った。外を眺めれば家々の屋根がうっすらと白い雪に覆われていた。赤い南天の実に白い雪が積もっている。
 この雪の朝で思い出したが、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』という小説は冒頭が、このような雪の降った朝ではなかったか。このイタリア発のミステリーの人気の世界的流行に、発売されてから七年近く取り残されていた日本で、映画『薔薇の名前』が公開上映された。小説は日本語で翻訳されていないまま、映画の方が先に上映されたのだった。主演のショーン・コネリーは、うーむ、渋くて素晴らしいなあ。
 その時、映画『薔薇の名前』についての批評や紹介文が雑誌にあったのだが、今でもおぼえているのは中沢新一の映画『薔薇の名前』についての文で、小説の『薔薇の名前』の冒頭の文を引用していたので、どんな本から引用しているかと思ったら、英語版からの引用だった。
 降り積もった雪の深さを英語版はインチで表記していたので、中沢新一は英語からそのまま雪の深さを「インチ」で翻訳したのだろう。ちなみにイタリア語版はセンチで表記されている。あのころはイタリア書房のお世話になったなあ。映画が公開上映されても日本語の翻訳本がまだない頃の話。
 西丸震哉の『僕はこんな旅をしてきた』(DHC)を開く。多田道太郎の『からだの日本文化』(潮出版社)で「へそ」をめぐっての文でイースター島の話が出てくる。多田道太郎の「へそ」をめぐる文章はとても面白い。西丸震哉のイースター島紀行も読んでみよう。