山田稔の『ああ、そうかね』

冬のカモ

 気温は終日上がらず低温だった。公園の樹木の紅葉が見事だ。葉の形からトウカエデかな。ずいぶん背の高い樹だなあ。河岸にカモの群れが上陸していた。八羽くらいの集団で、広い階段状になった部分に生えている苔(こけ)をついばんでいたのかもしれない。川辺へ石の階段を降りて行き、カモたちへ近づいて行った。すると、わたしの気配を察して逃げるようにカモは水の中へ飛び込んだ。川に浮かんでぷかりぷかり遊泳を始める。羽の色や特徴から、このカモはヒドリガモかな。
 小津安二郎をめぐっての文で簡潔で、とぼけた味のある文を読んだ。山田稔の『ああ、そうかね』1996年(京都新聞社)だ。

 小津の映画は比較的セリフが少ない。笠智衆の真骨頂は黙って座っていることにある。たまにこう言うくらいだ。
 「ああ、そうかね。そういうもんかね」  151頁

ああ、そうかね (日本エッセイスト・クラブ賞受賞)