嵐山光三郎の『文人暴食』

カエデ

 川を渡っていると、今日はカモメの群れを見た。晴れ上がって風が強い。きのうはアオサギがとまっていた竹の篊(ひび)の立っている水面に、カモメの群れが広く散らばってぷかぷか浮いていた。
 『青春と読書』2006年1月号で茂木健一郎の連載「欲望する脳」を読む。「精(くわ)しさ」に至る道筋、という題で『小林秀雄全集』や『小林秀雄全作品』の編集を担当された池田雅延さんをお呼びして、カルチャーセンターでの講座で、お聞きした話をめぐって興味ある読み物を書いている。

 酒さえ飲めれば良いという欲望の大まかなあり方を今仮に動物的、本能的とすれば、さらにうまく飲もうという工夫はすぐれて人間的ある。極端なことを言えば、酒をより美味しく飲もうという工夫から、文明が始まり、文化が生まれると言っても良いだろう。  33頁

 嵐山光三郎の『文人暴食』が新潮文庫になった。まず最初に「稲垣足穂」を読んだ。うーむ。これは、これは。食べ物を通してここまで作家の生涯にせまれるのか。評伝としてもすこぶる面白い。明治、大正、昭和の文学史(?)としても味わえる。嵐山光三郎の文章は変化球の連続でバッターから三振を取る投手のようだ。
 「稲垣足穂」での三島由紀夫の話は、嵐山投手のストレート球だなぁ。