ぶらり散歩、ぶらり見物

馬と馬車

 昨夜の散歩では寒さにぶるぶる震えながら、大通りの街路樹などをイルミネーションやライトアップで飾(かざ)った夜景を楽しんだ。ぶらり散歩、ぶらり見物をしたのだった。今年のイルミネーションのテーマは「おとぎの国」をイメージしたとか。道理で、馬車や馬、空飛ぶ翼のある恐竜、水面から跳ねる魚、王様と女王、光の宮殿などが連続して通りに展開されていた。寒さのため、展示されている通りの半分ほどで見物をあきらめて、退散することにしたのだった。残りの展示は、また後で見ることにしよう。
 笹川巌の『怠けの歳時記 知る遊ぶ休む』(実業之日本社)では、明治・大正散歩文芸史を二派に分かれるようだとして、一つは自然流、郊外流で国木田独歩の『武蔵野』、島崎藤村の『千曲川のスケッチ』、徳富蘆花の『自然と人生』をあげている。「散歩文芸」のもう一派は都会派で、典型的なものとして永井荷風の『深川の唄』や『日和下駄』、木下杢太郎の『街頭風景』と『食後の唄』などをあげている。

 その後の、散歩がらみで記憶に残る作品には、志賀直哉の安孫子ものなどの小品、尾崎一雄の一連の作品、井伏鱒二『夜更けと梅の花』、太宰治『黄村先生言行録』、島木健作『赤蛙』、坂口安吾『群集の中の孤独』等々がある。
 昭和も四十年代に入ると、散歩ものは影が薄くなり、五木寛之、小川国夫の国際放浪ものや片岡義男などのドライブ・オートバイ小説が幅を利かせるようになった。芥川賞作家・三木卓の最新作『海辺で』は、最近珍しい本格的身辺雑記型散歩文学の名品である。  217頁

 この本は1984年の12月に発行されている。バブル経済の始まる少し前の本になる。