カモメと月

 正午過ぎに川を渡っている時、白いカモメの群れが接近して来た。前方二メートルほどの距離で二羽三羽と群れて横切って行く。下から眺めると、つばさを上下にゆっくり動かしながら右から左へ、わたしの頭の上の方にも、つぎからつぎへと白いカモメが飛び越して行ったのだった。間近に見るカモメの胴体は、意外に大きい。
 夕方に上弦の月を少し過ぎた頃の月が東の空に高く上がっていた。
 田村隆一の『ぼくの東京』(徳間文庫)を読む。「狐と僧 谷中」には詩人の吉本隆明さんが登場する。まるで、フェリーニの映画『アマルコルド』のようなと言えばいいか、そんな文章である。カメラマンの高梨親分との散歩による「東京」を、田村隆一の眼を通して一緒に歩いているような気がする。この高梨親分というのは、写真家の高梨豊さん。「ライカ同盟」のメンバーのお一人。