足穂と富士せんべい

 今夜は満月。蕪村の句、「静なるかしの木はらや冬の月」かな。夜半に外が明るいので出てみると、晴れ渡った夜空に月が天高く眺められた。
 吉田健一の『酒肴酒』(光文社文庫)を読む。「舌鼓ところどころ」の「世界の味を持つ神戸」で、この文の終わり近くで明石の「富士の山煎餅」*1などが印象に残ったと書き留めている。この明石時代をめぐっての稲垣足穂に『明石』がある。その本で、この「富士の山煎餅」について稲垣足穂が触れているのだった。また、雑誌「サライ」1994年7月7日号に、「文豪たちのおやつ」として、

 時空を越えて「物質の将来」を想う足穂は しばしば筆をおいて地球に戻り、せんべいの歯ごたえとその造形の美しさを楽しんだのかもしれない。食欲にかかわりある事柄を嫌った足穂にとっては、“富士せんべい”はいわば少年時代を思い起こさせるタイムマシンのようなものだったのかもしれない。

 と記事になっている。