さくら狩美人の腹や減却す

ソメイヨシノ

 街路樹のソメイヨシノは今が見ごろかな。あちこちの公園でも桜人*1が増えている。その桜人を詠んだ蕪村の句に、

 さくら狩(がり)美人の腹や減却(げんきゃく)す*2
 花の幕兼好を覗く女あり*3

 一句目は、ことわざでいうと、「花より団子」? なんだか、おかしみがある。
 「兼好を覗く女あり」の方は、吉田兼好の『徒然草』の第二百三十八段を読んで知っていれば、ああそうだね、と思わずにやりとする、そういう句かな。
 講談社のPR誌『本』2006年4月号の石原千秋の連載は「百年前の男と女」(副題に、雑書から覗く明治・大正)とあり、とてもオモシロイ。最近の映画でジェーン・オースティン原作の『プライドと偏見』(1813年)、それとチャールズ・ディケンズ原作の『オリバー・ツイスト』(1838年)による新作映画を取り上げて、夏目漱石の『虞美人草』が『プライドと偏見』になぞらえることができるのではないか、と言う。うーん。なるほどね。その理由の説明のお手並みが見事だ。今回のタイトルは「社交場としての博覧会」。

*1:桜をめでる人。

*2:減却。減ること。

*3:兼好を覗(のぞ)く女。『徒然草』第二百三十八段。「一(ひとつ)、二月(きさらぎ)十五日、月明き夜、うちふけて、千本の寺に詣でて、後よりいりて、一人顔深く隠して、聴聞しはべりしに、優(いう)なる女の、姿・匂ひ、人よりことなるが、分け入りて膝にゐかかれば、匂ひなども移るばかりなれば、便悪しと思ひてすり退(の)きたるに、なほゐよりて、同じ様(さま)なれば、立ちぬ。」