若葉(本)とブラウジング

シダレヤナギ

 橋のたもとや川岸にヤナギが植えられている。通りの街路樹の中に根元の太い幹で、背丈の高いシダレヤナギの若葉が芽吹いている。細長い葉の形だ。『蕪村遺稿』に、

 柳から日のくれかゝる野路(のみち)かな
 花に啼(なく)声としもなき乙鳥(つばめ)哉

 ツバメは先日、初めて見かけた。シダレヤナギを『大辞泉』で引用すると、

 ヤナギ科の落葉高木。枝は垂れ下がり、細長い葉をつける。雌雄異株。早春、黄緑色の花を穂状につける。日本には古代に中国から渡来。

 若葉を食べるという言葉をめぐって、ちょっと面白い話を読んだ。きのう、古書店で買った森村稔の『クリエイティブ志願』(ちくま文庫)に、「図書館万歳」、「ブラウジング」、「読書ユックリズム」といったエッセイで、とりわけ「ブラウジング」での話が興味を引いた。

 〝ブラウジング〟とは耳慣れない言葉であったが、見当をつけて辞書を繰ってみたらすぐわかった。browseとは牛や鹿が若葉を食べること。browse in the pages of a bookといえば、のんびりと本のひろい読みをすることを指す。
 考えてみれば、ブラウジングは読書の形としては最高に楽しいものである。研究や仕事にからんだ特定の目的があるわけではない。ただ、そこはかとない自分の知的興味にまかせ、本や雑誌のページを繰り、おもしろそうなところがあったらちょっと読んでみる。
 また、そういう読書の中にも、思いがけぬ発見があったりする。
 独創的な発想・発見に充ちたエッセイを数多く書き残した寺田寅彦は、ひまなときには手近かの雑誌でもめくってみよ、論文の題名を見るだけでもなんらかのヒントになる、と学生たちにすすめたそうだ。大部の書物を通読することだけが読書ではないのである。  「ブラウジング」 148〜149頁