ブローティガンの蛙の話

睡蓮の花と蛙

 公園の池へ寄り道。先日よりは、カエルが活発に動いている。池のあちこちに、目玉を水面から出してじっとしていたり、睡蓮の葉にちょこんと座っている。様子をみていると、通りかかった人たちが、吸い寄せられるように池をのぞきに来る。池で何があるのかを、何人もの人が観察していた。バンクーバーから来たという女の人がいて、水面へやって来たトンボを指して、なにやら声をあげた。連れの男が、「ドラゴン・フライ!」と言った。池の周りにいるひとは、その声で一斉に池のトンボに注目した。トンボは飛びながら睡蓮の葉に止まろうと繰り返している。
 鳴き声がやかましくなった。すると、ドラゴン・フライ男がやや大きな声で「うるさいね〜。」と日本語で突然に声をあげた。「うん。うるさいわね〜。」とバンクーバー女がやや小さい声でうれしそうに言った。なんだか、子供時代に戻ったかのようなやりとり。
 カエルといえば、リチャード・ブローティガンの『ビッグ・サーの南軍将軍』*1で、池のカエルがうるさいので、語り手の「わたし」の友人、リー・メロンがカエルの鳴き声を静かにさせようと、池へ鰐(わに)を放す場面がある。

「蛙の脚は好きかね?」とリー・メロンは鰐に怒鳴るようにいうと、そっと池へ放した。鰐はおもちゃのボートのように、じっと動かない。リー・メロンが軽く押してやると、鰐はすべるように池へ入った。
 池は墓地のまんなかへ落とされたみたいに、パタッと静かになった。  「蛙たちとの別れ」

 幸いにも、ドラゴン・フライ男の「うるさいね〜。」の一声で、カエルたちは大人しくなった。ドラゴン・フライ男はバッグから鰐を取り出さないで、デジタルカメラを取り出して睡蓮の花の撮影を始めた。
 睡蓮の花が咲いている。うーん。見事だ。
 午後八時ごろ、晴れ上がった南東の空に月がかかっていた。高度は三十度くらい。ほぼ満月である。月の左下にとても明るい木星も眺められた。観測するには良い時期だ。