権威には生贄が必要

クマノミズキの花

 街路樹のクマノミズキ(熊野水木)に白い花が咲いている。そばを通り過ぎるときに、今まで花に気づかなかった。広く枝を張った大木である。花が咲いている枝と言えば、頭上はるか高い位置にあり、茂った葉の間に見え隠れする。根元から少し離れて仰げば白い花が密生しているのだった。ふーむ。目に青葉の季節だ。青葉といえば、子規の句に、

 心よき青葉の風や旅姿

 『群像』2006年7月号で、「権威には生贄が必要」という座談会。古井由吉高橋源一郎山田詠美の三人が語り合っている。古井さんをめぐって高橋源一郎山田詠美のお二人が、疑問に思っていることなどを質問している。思いも寄らなかった古井さんからの返答に、お二人がその意外な心情に驚きながら話を進めているのが、興味深い。
 読みながら、なるほどね。納得するところあり。

高橋 それはそうですよ。作家って、みんな病人じゃないですか。ほぼ全員引きこもりみたいなもんだし(笑)  171頁

 古井さんは、「おれは権威になりたくない」(185頁)と言う。

山田 古井さんは、小説家ってかたぎの職業だと思いますか。
古井 かたぎじゃないね。はっきりいって、まじめにやればやるほど、かたぎじゃないというのがよくわかる。
山田 小説家って、普通の格好をしていてもかたぎじゃないっていうことなのかな。
古井 かたぎどころか詐欺師みたいな感じもする。  185頁