嵐山光三郎の『芭蕉紀行』のこと

ソメイヨシノ紅葉

 街路樹が色づき始めている。イチョウの葉は緑から黄色へと変わりつつあり、ソメイヨシノの桜の葉も紅葉して来た。『蕪村句集』に、

  洛東ばせを庵にて
冬ちかし時雨(しぐれ)の雲もこゝよりぞ*1

 京都一乗寺村の金福寺の境内に蕪村らは、芭蕉庵という草庵を建てている。その芭蕉の旅をめぐっての紀行、嵐山光三郎の『芭蕉紀行』*2新潮文庫)を、やっと読み終えたところだ。少しずつのペースで読み続けた。終わりのほうでは、読み終えるのが惜しいような気持ちであった。
 『野ざらし紀行』、『かしま紀行』、『笈の小文』、『更科紀行』を実地検証する嵐山光三郎の旅が、芭蕉の目になりきって見ている。もちろん『奥の細道』も。その辺のことを、「死にもせぬ旅ねの果てよ」というタイトルの解説で田中優子さんも書かれていた。

芭蕉は江戸時代にあって、急速に(貨幣経済の中で)失われてゆく死者や精霊を観ずる心をみつめ、言葉に刻みつけようとしたのではないだろうか。著者は旅をしながら、そのこころに出会っている。  375頁

 


 

*1:脚注に、ばせを(芭蕉)庵。安永五年(1776年)夏、京都一乗寺村の金福寺境内に蕪村らによって建てられた草庵。

*2:ISBN:4101419078