猛獣戯画〜長沢蘆雪

イチョウ

 通りの街路樹が紅葉している。ソメイヨシノの桜の葉が風に吹かれて散り始めていた。青空を背景にしてイチョウの黄色が鮮やかである。
 先週の夜、眠ってしまって見逃していたNHK教育テレビの『知るを楽しむ この人この世界―辻惟雄』の「ギョッとする江戸の絵画」を早朝の再放送で見ることができた。第六回「猛獣戯画〜長沢蘆雪」と題して、美術史家の辻惟雄(つじのぶお)さんが和歌山県の本州南端の潮岬から、長沢蘆雪ゆかりの無量寺の収蔵庫にある「龍図」と「虎図」について語ってゆく。
 「虎図」の虎は、《猛獣が獲物に襲いかかるその瞬間を狙った、大胆な表現》とか、《動物表現では類をみない「世界の名画」》であると話されていた。うーん。なるほど。蘆雪の虎の前足が一本に見えるところを、《いちいち手足を解剖学的図譜的な正確さにこだわっては駄目》とも。《虎の方は龍なんか問題にしないで獲物の方に集中している》。
 蘆雪は二十五歳で円山応挙に入門している。三十歳で応挙の代役として、この潮岬のある串本の無量寺の襖絵を描く。三十三歳でも。
 入門して始めの頃は先生の円山応挙の絵とそっくりな絵を忠実に描いていたが、その後は徐々に蘆雪の《判じ物、遊びの精神、漫画》といった作風を絵に表現して行くようになる。そういうことから、円山派の中で疎まれるようになり、晩年の死は毒殺されたのではないかとも言われているそうだ。
 それは、さて置き、串本に残されている蘆雪の屏風絵に、手前が鯨で海に浮かんだ鯨の背中の向こうに、鯨を捕る小さく見える漁船のある絵がある。これは、判じ物、遊びの精神、漫画といってもいいような絵だ。オモシロイ。
 猫を描かしても、鮎をねらっている猫の目つき。動物の瞬間の動きをとらえている。そのユーモア。
 「白象黒牛図屏風」の子犬とカラスは、確かに黒白大小の対比をねらっているね。
 辻惟雄さんは、江戸の鳥羽僧正だと言う。
 最後に、兵庫県日本海側の香住にある大乗寺の襖絵の「群猿図」などについても語られていた。大乗寺は訪れたことがある。円山派の美術館とでもいえるかな。
 参照:「ギョッとする江戸の絵画」http://www.nhk.or.jp/shiruraku/200611/monday.html#2
 「大乗寺http://www.daijyoji.or.jp/main/index.html