北斎の絵の種明かし

コサギ

 川を渡っていると橋の中ほどで上空、十五メートルのところを、白いカモメが左手から右手へ飛び越えて行った。力強く羽を動かしながら、あっという間に小さくなっていった。速い。
 昨夜のNHK教育テレビの「ギョッとする江戸の絵画」は、第七回「天才は爆発する〜葛飾北斎」で、辻惟雄(つじのぶお)さんから長野県の小布施にある高井鴻山記念館の北斎の「鳳凰図」「女浪図」の絵をめぐって興味深い発見や特徴などを聴いた。
 これらの絵にエキゾチックな効果をねらった意図、西洋の絵からの引用と見られるふしがみられると言う。たとえば、エンジェル(天使)を北斎は絵の縁に描いていた。ふーむ。たしかに、エキゾチックな効果をねらっている。
 北斎は《外から入ってきたものに対して敏感な好奇心と学習意欲を持っていた》らしい。その痕跡が絵に残されている。
 ヤン・ヨンストンの『動物図譜』という本のイラストの「犀ノ図」に表された脇腹の模様を、自分の絵の模様に質感として使っているのではないか。そういう、北斎の絵の種明かしをしているのだった。
 辻惟雄さんの、こういう指摘に感心した。鋭い指摘、発見である。それでも、《種明かししても北斎の鋭いイマジネーションには感心させられる》と話されていた。
 勝川春朗(しゅんろう)という名前は、北斎の初期の画号だった。
 北斎北斎になったのは、『椿説弓張月』の読本挿絵からである。
 『富嶽三十六景』の富士山と風景の組み合わせで無限のバリエーションが出てくる、この偉大な奇想の画家の北斎ワールドの素晴らしさを、辻さんの名調子で聴いたのだった。
 参照:「知るを楽しむhttp://www.nhk.or.jp/shiruraku/200611/monday.html