森本哲郎さんと雑誌『VAN』

 昨日、川を渡っている時に、二羽のカモメが頭の上を飛び越えて去って行った。上流の方にいる仲間から離れて飛んで来たのだ。間近に見ると速いなあ。

 雑誌『BRUTUS』は、〈脳科学者ならこう言うね!〉というタイトルの特集。茂木健一郎中沢新一の対談を読んだ。
 南方熊楠への関心の経緯を語る中沢さん。なるほど、そうだったのか・・・。

 森本哲郎の『「私」のいる文章』(新潮文庫)に、エピローグで伊藤逸平さんについてのエピソードがある。
 森本哲郎の『世界の都市の物語8 ウィーン』で書かれていた雑誌『VAN』のことが、この文庫でも「エピローグ――広角レンズと望遠レンズ」の中で書かれている。
 『VAN』を発行していたイブニング・スター社へ面接試験を受けに出かけた森本哲郎さんの話に、伊藤逸平さんが登場する。
 なんと試験官が伊藤逸平さんだったのだ。

ところが、おどろいたことに面接時間がやたらに長いのである。しまいには興に乗ってフロイトやらサルトルまでがとび出す始末だった。サルトルといえば、ちょうどそのころ、『嘔吐』という小説が紹介されて、たいへんな衝撃を学生や知識人に与えていたのだ。小一時間も議論したあげく、目の鋭いその試験官はすっくと立ちあがって、こう宣言した。
「よろしい。君を採用する」
 こうして、ぼくは即日採用ときまり、翌日からイブニング・スター社の編集者として勤務することになった。雑誌は『VAN』という奇妙な誌名のマンガ雑誌、というより諷刺雑誌だった。その編集長が、くだんの男、伊藤逸平氏であった。  193頁