ブルーノ・ムナーリの本

 ブルーノ・ムナーリの『デザインとヴィジュアル・コミュニケーション』(みすず書房)の訳者あとがきを読んでいると、エンツォ・マリの名前が挙げられていた。なぜムナーリがアメリカの大学から招かれたのだろうか、という疑問に「アルテ・プログランマータ(プログラミング・アート)展」という1962年に開かれたミラノでの展覧会がひとつの根拠として挙げられると言う。
 参加者に今も現役デザイナーであるエンツォ・マリもいたんだね。「アルテ・プログランマータ」という名称の名付け親は、あの『薔薇の名前』という小説で知られるウンベルト・エーコであった。
 うーむ。ムナーリとエーコ。訳者の萱野有美さんも言うようにやや意外な印象だが、二人はグラフィック・デザイナーと編集顧問として大手出版社のポンピアー二で知り合い、60年代に親しい間柄になったようだとある。
 記号学者としてのエーコの著作『開かれた作品』、『不在の構造』でムナーリの作品に言及されているそうだ。

 しかしムナーリの仕事全体を見渡したとき、そのような角張って、時に息苦しさを感じるような主義だけでは語れないなにかがあると私は思う。固まった思考をサッと解きほぐすような、新鮮な風をはこんでくれるような開放感を、そしてどこかとぼけていて、笑わせてくれるような爽快感を、ムナーリの言葉や作品から感じるのは決して私だけではないだろう。
 折りしも来年はムナーリ生誕100年にあたる。それに伴い、ここ日本でもムナーリの実作品に触れる機会が増えることと期待している。モノを見るのは楽しい――常々そう言っていたムナーリであるが、読者のみなさんにとって、本書がそのムナーリの世界を見て、感じ、これまで以上に楽しむきっかけになってくれれば、と願う。  383頁

デザインとヴィジュアル・コミュニケーション