内山節『自由論』と小石の役割

貸本マンガ史研究

 四月二十日は二十四節気のひとつ穀雨であった。
 穀物をうるおす春雨という意味があるらしい。昨日は雨は降らなかったが、南からの風が強かった。街路樹のクスノキの新緑の若葉が踊っていた。
 
 内山節の『自由論』を読み終える。信濃毎日新聞に一九九五年一月から九六年一二月まで連載されたものである。著者はあとがきで、「新聞連載にはむかないのではないかと思われるほどに、冒険的で、けっしてわかりやすいものではなかったにもかかわらず、温かく見守ってくださった皆様に心から感謝の意を伝えたい。」と書くが、けっしてそんなことはなかった。水田の中のジャンボ・タニシや畑の土の中に含まれる小石の役割を語っていて、そこに生命の自由さを感じている著者の思いに、はっとした。

 そのとき、畑の石は取り過ぎないようにと言っていた村人のことを思い出した。作物は、ほとんどは畑の土の力によって育てられる。その土を、畑に暮らす小動物たちがつくっている。その小動物たちを、小石が夏の日照りから守っていた。このとき、石もまた作物をつくっているのだと思った。石もまた、ひとつの役割を演じながら、この「場所」に自由な存在をもつ仲間なのだと。  『自由論』281〜282ページ