アリが友達――熊谷守一

アキグミ

 通りの街路樹にあるアキグミの白い花が満開になっている。花弁が四枚あり、枝が花で覆われて白い霞のように見えるほどだ。
 公園の池に寄り道してみた。まだハスは枯れたまま水面に眠っている。生き物といえば、メダカや鮒(フナ)がいた。
 老舗書店で、講談社のPR誌『本』と『新刊ニュース』2007年5月号を頂く。
 『本』では、池内紀の連載「珍品堂目録」を読んだ。今月のタイトルは「アリが友達――『蒼蠅』」で、画家熊谷守一(くまがいもりかず)の《澄んだ風がサヤサヤと吹いてくるここち》のするような超俗的な生き方を語った『蒼蠅』という本をめぐる話である。
 この本は九十六歳だった熊谷守一からの聞き書きで、翌年に亡くなっているので絶筆ならぬ「絶言」にあたるという。

「絵を描くより、ほかのことをしているほうがたのしいのです。欲なし、計画なし、夢なし、退屈なし、それでいていつまでも生きていたいのです。石ころ一つそばにあれば、それをいじって何日でも過せます」
 庭に寝ころんでアリをながめているのが好きだった。そしてアリが左の二番目の脚から歩き出すのを発見した。

 ほかのエピソードとして、

「日雇」というのは、木曾谷で筏流しをしていたからだ。将来を期待されていたのに、美校を出たあと熊谷守一農商務省樺太調査隊に加わって、二年ばかり船に乗っていた。そのときアイヌを知り、「もし神様がいたならこんな姿では」と思ったそうだ。二十八歳のとき、代表作の一つ「ローソク」を文展に出品。母の死に際して帰郷、六年にわたり木曾谷で働いていた。
 画家としての声望が高まるのは七十歳をこえてからである。

 堀井憲一郎の連載「落語の向こうのニッポン」は、「歩くのは損?」と題して、歩き方を話題にしているが、とても面白かった。ナンバ歩きにもふれている。
 落語の『あくびの稽古』(上方の噺)、『あくび指南』(江戸方)、『慶安太平記』(もとは講談ネタを立川談志が落語に直し、その弟子談春が得意としている)、『居残り佐平次』、『池田の猪買い』(上方の噺)を例に採りながら興味深い話が展開されている。
蒼蝿