なかなかにひとりあればぞ月を友

 夕方、東の空に月が昇って来ていた。満月である。
 夜半に、月明かりに誘われるように外へ出てみると、ちょうど月が高く南中していた。夜空は月明かりなのだが、微かに天の川の星が眺められる。
 今年は中秋の名月は九月二十五日で、満月は二十七日の午前五時頃だそうだ。
 蕪村の句に、

  良夜とふかたもなくに、訪来(とひく)る人もなければ
なかなかにひとりあればぞ月を友

 安永五年八月十五日の句である。
 中国新聞で、田中和生の「文学の羅針盤」を読んだ。採り上げられているのは、前田司郎、荻野アンナ、蜂飼耳の作品。いずれも、「人間が人間として生きる根源」に触れた言葉に打たれるとして論じている。
 作品は前田司郎が「誰かが手を、握っているような気がしてならない」、荻野アンナが「蟹と彼と私」。先日、NHK教育テレビの「視点・論点」で、深沢七郎の話を聴いた蜂飼耳が「六角形」(「新潮」十月号)。
 前田司郎は、ヴァージニア・ウルフの手法を、一人称で行なったような実験的な書き方である、という。