今朝の秋朝精進のはじめかな

文庫の表紙

 日の出前に、外へ出ると、東の空に光る星があった。
 明けの明星の金星が、まばゆいばかりに輝いている。
 高度は、四十度くらいの高さだ。
 午前五時半過ぎであるが、月も天頂近くまで昇っているのだった。
 三日月形で、細く瞼(まぶた)を閉じたような月。
 南の方に、これも明るい星でシリウスだろう。しだいに、空が明るくなって来ている。頭上の天の川に、星がまばらになって、まだ、輝いているのだった。蕪村の句に、「今朝の秋朝精進のはじめかな」。
 加藤治子の『ひとりのおんな』(福武文庫)を読む。インタビュー・構成が久世光彦によるたおやかな対話。雑誌「カルディエ」一九九一年五月号から九二年四月号の連載に、語り下しを加えて構成されている。
 久世光彦が聞き手なので、向田邦子の「寺内貫太郎一家」の話や向田邦子さんのエピソードなどもあるが、「昔のこと今のこと」に登場する人々の話が興味深い。
 
 東京のお雑煮に入っている「お餅」のことを、加藤さんの家ではオカチン(おかちん)と言っていたそうだ。祖父が、宮家の仕事をしていて、そちらのほうの言葉らしい、と。
 そういえば、十月六日に公開される森田芳光の映画『サウスバウンド』に、加藤治子さんが出演している。