鴻巣友季子の『やみくも』のこと

 『やみくも』というタイトルの鴻巣友季子の本を読み始める。
 副題に「翻訳家、穴に落ちる」とあるが、「あとがき」に鴻巣さんは、「なにかやりだすとすぐ、横道へ横道へとそれていってしまう。本や映画などでは本筋と関係ない些事・細部に目がいく。仕事の成果に直接影響がないことに限って力が入る。凝りまくる。道ばたの穴が気になる。」と言う。
 それは、さて置き、ひいきの映画館について「下高井戸シネマ」と題した文で、ウディ・アレンの映画を《初めて「アニー・ホール」を都心の名画座で観て以来、彼の新作はほぼ毎年観ている。》という箇所があったので、おやっ、と思った。ウディ・アレンが監督・脚本の映画『タロットカード殺人事件』を観たばかりだったので・・・。

 客入りは八割ちょっとだろうか。週末の夜、地元の名画座がこうして賑わっているのは、それだけでわたしをひどく安堵させる。そしてしみじみと誇らしく思うのだ。
 わたしは「下高井戸シネマ」の近所に住んでいる。  67ページ

 うーむ。一昨日のシネツイン1の客の入りは、一割ちょっとだっただろうか。それだけで私をひどく心配させる。
 皆さん、映画は映画館で!
 おっと、忘れるところだった。この本の装画・挿画は、さげさかのりこさんで、本文の中で犬を描いている。犬は、道ばたの穴を覗きこんでいたり、ふらふら歩き回ったり、塀の上に前足を掛けて何やら眺めている。この犬を見るだけでも、楽しい。

やみくも―翻訳家、穴に落ちる

やみくも―翻訳家、穴に落ちる