ヤスミン・アハマドの『グブラ』

紅梅

 散歩の途中、紅梅が咲き始めているので、そばに寄り眺める。
 蕪村の句に、「寒梅や出羽(いでは)の人の駕(かご)の内」。*1
 マレーシア映画『グブラ』(2005年、113分、カラー)を観る。 監督はヤスミン・アハマド(Yasmin Ahmad)で、ヤスミンの物語「オーキッド4部作」のうち第3作である。
 冒頭、朝食のサンドイッチを作り、コーヒーを入れるシーンがある。貧しい人々の住む街で穏やかに暮らす聖職者の家族の忘れられない場面だ。 
 一方、マレー人の少女オーキッドは、イギリス留学で知り合った広告業界のエリートと結婚している。そういった貧しい人々の家族たちとエリートのオーキッドの家族の物語が交錯する。
 この映画を観ていくうちに、この映画が連作だと気が付いた。
 第2作『細い目』の亡くなった初恋の人ジェイソン(自称)の家族と彼女の父親の入院先の病院で偶然にも再会する。入院中のジェイソンの父親は病院でも食事が不味いと不満をもらす。夫婦で病院でも喧嘩を繰り返す。
 食べ物といったそういった描写の中にも、マレーシア社会の文化の多様性がうかがわれる。コミカルで深遠で、可笑しくあたたかなユーモアのセリフが忘れられない。公園で三人の女がブランコに並んで乗っていて、やって来たアイスクリーム屋に、一人の女がアイスクリームを買いに行った時のアイスクリーム屋の会話のユーモアのセンスがいい。

*1:脚注に出羽とは、今の山形県。「出で端」(出しな)と掛ける。