黒岩比佐子『編集者国木田独歩の時代』のこと

アオサギ

 川を渡っていると竹のひびの上にアオサギがいた。まだ渡り鳥のヒドリガモは岸辺の浅瀬で海苔をついばんでいる。
 北の方へ旅立つ日も、もうすぐだろう。
 南の方からの渡り鳥ツバメが飛んでいるのを見たのは今年は三月二十八日だった。
 そのツバメの巣に雛がいつの間にやら育っている。
 蕪村の句に、「ふためいて金の間を出る燕(つばめ)かな」。安永二年二月の句。
 黒岩比佐子『編集者国木田独歩の時代』(角川選書)を読み終える。

一九〇四年から五年にかけて、『戦時画報』の発行で大きな成功を収めた独歩は、編集長として自分が進めてきたことに自信を深めたに違いない。彼はそれに満足して立ち止まることなく、さらに雑誌ジャーナリズムの世界で疾走を続けていくことになる。この短い数年間こそが、国木田独歩の人生における黄金期だったと、私は信じて疑わない。 136ページ

 今も書店に並んでいる『婦人画報』を創刊したのが国木田独歩だったというのを六年前に知った黒岩比佐子さんによる本で、小説家という国木田独歩の顔ではなく、百年前のグラフ雑誌を発行するようになった独歩の歩みと魅力が、この本を読んでいると伝わって来る。

編集者国木田独歩の時代 (角川選書)

編集者国木田独歩の時代 (角川選書)