今夜のラジオ深夜便は、明石勇アナウンサーの担当日である。
「ないとガイド」は「読書で豊かに」で、植島啓司さんがゲストで出演している。
一年のうち二百日は旅に出ているという植島さんが話す。
最初に、「お金がなくても、貧富の差とか、そういうことで計(はか)りきれないような人間の生き方みたいなことについて、今日はちょっとお話してみたいと思います」。
今月の紹介された本は次の三冊でした。
一冊目は、石川直樹『いま生きているという冒険』(理論社)
二冊目は、坂口恭平『TOKYO 0円ハウス0円生活』(大和書房)
三冊目は、横光利一『上海』(岩波文庫)
最初の石川直樹さんは中学二年から一人旅をした人で、今三十歳くらいの人で、その間に密度の濃い旅をしたその経験が淡々と書かれているんですが、社会のレールから外れること、日本だけではなく世界の人々を見て廻った石川さんの自分が変わっていくことに興味を持つようになったことを、植島さんが熱く語る。
二冊目の坂口恭平さんの本は、ホームレスの生活を通して、人間にとって豊かなこととは何かということを考えさせられる本である。
現在を十分に楽しんでいない人には、お勧めの本です。
明石アナウンサーが、「そういう人には、元気になる本ですね。冗談じゃなく、自分もやってみたくなりますね」。
最後の三冊目は、横光利一の小説をめぐる話でした。
横光の小説はですね。と植島啓司さんが明石アナウンサーに語りかける。
人間の心に起こる感覚に沿ってですね、世界を描写していくというそういうやり方をとっているものですから、上海の描写としては、非常になんと言うんでしょうか。適任というか。
これ以上あの当時の上海をうまく描写できる人は、他にいないだろうなと思いますね。
明石 ああ、そうですか。そういう意味では、これは小説ではあるんですけれども、上海あるいは中国との関係とかですね。そういうところを、そのより、その政府レベルとか、歴史レベルじゃないところで、実態を知るにはいい、なんか小説だったなぁ、と思いました。
植島 その当時の一人ひとりの心の中に、何が起こっていたかを表現したほうが、むしろ、上海、当時の上海が、逆に浮かび上がってくるような気がしますね。
誰が主人公か分かんないような書き方で、まあ群像劇というか、いろんな人が出て来る。
今の小説、日本で出てる小説みな、私が私がばっかりで、すごい狭い世界だと思うんですけども、これは『上海』は、いろんな人たちがその、生きて動いてゆく。
それが、書けるっていうのは、これこそ小説家だと、ぼく、思うんですけど・・・。
次回、五月は詩人の阿部日奈子さん、六月は俳優の篠井英介さんを予定しているそうだ。