桃花祭の舞楽

蘇利古

 コンビニで「漁師町風真あじ弁当」を買ってフェリーに乗り込む。
デッキで夕陽を見ながら腹ごしらえ。素朴な弁当だが、絶品。
 牡蠣筏(いかだ)の浮かぶ海面を10分で宮島へ渡る。
 日の暮れた参道を大鳥居が海中に見えるところを過ぎた地点に、サイクリストが自転車を柱にくくり付けていた。
 もうすぐ始まりますよ、と言うとサイクリストが、これから観に行くところだというので、並んで本殿へ急いだ。
 長い回廊をたどって高舞台の前に着く。参拝客が取り囲んでいたが、まだ桃花祭の舞楽は始まっていない。
 平舞台にぎっしり人がいたので、後ろの本殿で柵に寄りかかり、サイクリストと並んで開始を待った。
 シアトルからやって来た人で、今夜は島の北にあるキャンプ場で泊るそうだ。
 7時をまわって、桃花祭の舞楽が始まり、振鉾(えんぶ)の舞人が現れる。萬歳楽(まんざいらく)の四人舞、延喜楽(えんぎらく)の四人舞と演目が進む。
 もうすでに日が暮れていて、ロウソクの灯りで舞楽を観る。
 しだいに観客が減ってきて、平舞台の床に他の観客に混じって座れた。桃の花が高舞台にあるのを、神官が神前に献花する儀式がある。
 一曲(いっきょく)の二人舞の後に、四角な面を付けて舞う四人舞の蘇利古(そりこ)になる。
 そのときに、シアトルのサイクリスト男が隣で、ニッポンのアニメで見たお面に似ていると呟く。
 うーん。どうやら宮崎アニメで、お面を見たらしい。
 おっと、付け加えるとこの人はデンマークからの移民の子孫で三代目とか。
 この、宮崎アニメのお面であると指摘された蘇利古の後は、一人舞いがつづくのだ。
 しかも、色々な面をかぶって、頭巾を付けて舞う。
 散手(さんじゅ)、貴徳(きとく)、蘭陵王(らんりょうおう)といった勇壮な動きのある舞いがつづいて演じられる。  
 目と鼻の先まで舞人が近づくので迫力がある。
 足の運び方が、踵(かかと)から着地する。その動きが見ものである。 跳躍する場面もある。
 お仕舞いが、納曽利(なそり)の二人舞と、長慶子(ちょうげいし)という曲が演奏されるのを聴きながら帰路についたのだった。
 フェリーに乗り込むと、防弾チョッキを身につけた警官や私服警官がデッキにたむろしているのだった。
 なにやら不穏な空気が・・・・。
 宮島口にフェリーが着岸すると、下りる乗客に対して多数の警官の目が、突き刺すように向けられているのだった。
 うーむ。なにか事件があったのだろうか。