小津安二郎『一人息子』

 映像文化ライブラリーで、小津安二郎監督『一人息子』(1936年、82分、白黒)を観る。
 観客は30人ほど。時おり音声に雑音が入る。セリフは聞き取れないことはない。
 信州の生糸の産地で大久保という先生役で笠智衆が登場している。教え子の母親を飯田蝶子が演じていて、その一人息子の東京への進学を勧める。自分も、もっと勉強したいので教師を辞めて上京するつもりだと言うのだった・・・。
 話は、十二年後の1936年になる。
 母親は成長した息子を見に上京する。1936年の東京の街が見られる。飯田蝶子の母親が、息子のいる東京に上京する話だが、すでに小津安二郎の戦後の映画『東京物語』を連想させるところがある。
 息子(日守新一)は夜学の教師をしていて、所帯を持ち、赤ん坊がうまれたばかり。貧乏している。親子で恩師の大久保先生の住んでいる家に、挨拶に行く。
 ところが、息子の進学を勧めていた大久保先生は、東京で子沢山のとんかつ屋(?)の亭主になっている。
 息子は、同僚にお金を借りて、浅草で母親に映画を見せに出かけたりといった東京見物をさせる。
 浅草の映画館で、上映されているドイツ語の映画を親子で観るシーンがあるが、ドイツ語の映画をそのまま見せるというのが面白い趣向になっていて、何分かはドイツ語の映画をみることになる。
 今日もまた東京見物へ出かけようとしたある日、近所の子供たちの一人が、馬の腹の下を通り抜ける遊びをしていて、馬に蹴られる事故が起こる。
 急遽、息子は怪我をした子供を病院へ連れて行くことになり、東京見物は中止になるのだった。その時の息子の行動と気持ちに母親は、息子の成長をみることになり安堵する。
 そうして、信州へ戻ってゆくのだった。
 この映画の九年後には東京は焼野原になり敗戦になるのだが、戦前の東京の町並みや清掃工場のある埋め立て地(?)などの風景が眺められる。
 ひとつ気がついたのは、屋台へラーメンを買いに行くシーンがあった。映画では「ラーメン」と注文していた。シナ蕎麦と呼ぶかと思っていたが、「ラーメン」というセリフであった。