木下惠介の映画『陸軍』

サクランボウ

 公園の樹木、桜に葉が茂っている。葉桜の季節である。
 そばを通っていると葉の中に赤い実が見える。
 おやっ、サクランボウ? 近寄って見る。

 桜の果実の総称。特にセイヨウミザクラの実をいい、六月ごろ紅色・黄色に熟したものを食用とするほか、缶詰・ジャムなどにする。おうとう。さくらんぼ。  『大辞泉

  
 映像文化ライブラリーの「笠智衆特集」から木下惠介監督『陸軍』(1944年、松竹、87分、白黒)を観た。観客は35人ほど。
 製作完成は昭和19年11月。九州の小倉の商家の一家から日清・日露の戦争、そして太平洋戦争と息子を戦争に送り出す一家の物語。
 この映画は火野葦平の同名小説の映画化である。
 冒頭、幕末の小倉城をめぐる長州軍と幕府軍の戦いから始まる。
 物語は、小倉の商家の主がこの戦いを見ていて長州びいきで、のちに息子に軍人になるように遺言をして亡くなる。
 息子は日清・日露と出征する。成人になった息子を笠智衆が演じていて日露戦争に出征するが、病気で退役する。その当時の戦友を上原謙が演じている。
 退役したあと、『大日本史』という書物の思想を青年に教えるようになる。退役軍人で商家の主の息子の母親役を田中絹代が演じている。その息子が出征するのを追って行く最後の場面の田中絹代の演技が印象的だった。
 ところで、日清・日露の戦争のときに兵隊ではなく輸送船で働いた体験をもつ、今は実業家の東野英治郎笠智衆とが議論してやりあう場面がある。
 ここで笑った。二人が議論する場面の滑稽さと笑いのセンス。コメディーなのだ。それと、若い頃の東野英治郎が味のある演技をしていた。