ヤン・シュヴァンクマイエルと杉浦明平

 チェコのアニメーション作家ヤン・シュヴァンクマイエルの作品を見た中では、『レオナルドの日記』(1972年、11分、カラー)が気に入った。作品は、レオナルド・ダ・ヴィンの描いたデッサンが息を吹き込まれたかのように動きだす。
 レオナルド・ダ・ヴィンの手記のデッサンをアニメーションにした作者の発想に驚いた。
 アニメーションを見ながら、杉浦明平の『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』(岩波文庫)で見たレオナルドのデッサンを思い浮かべていたのだった。
 シュヴァンクマイエルは多くの芸術家がチェコから他国へ亡命して行くなかを、チェコで検閲と闘いながら、『家での静かな一週間』(1969年、20分、カラー・白黒)と『庭園』(1968年、16分、白黒)を撮っている。
 プログラムを見ると『家での静かな一週間』はオーバーハウゼン映画祭、タンペレ映画祭受賞とあり、『庭園』の方はヴェネツィア映画祭受賞とある。
 この二本の作品は1968年のチェコの「プラハの春」の時代への当てこすりであるのはあきらかだが、痛烈な人間社会への風刺と哄笑になっている。
 それはさて置き、週末から戦後文学エッセイ選6『杉浦明平集』(影書房)読みはじめた。
 単行本に書かれた杉浦明平のエッセイ=「雑文」から二十一篇が収録されて、この夏に出版された。編者は影書房の発行者・松本昌次氏。
 「立原道造の思い出」、「文圃堂の人々」が辛らつな筆さばきで面白い。
 昭和八年か九年に開店した文圃堂という古本屋をめぐる人々の話が、杉浦明平の目から書かれているのだが、杉浦明平の若き日を彷彿させていてとても興味深い。面白いエピソードあり。
 「風吹けばお百姓がモウかる」は、百姓から見た野菜や花の相場の移り変わりを語り目から鱗である。

杉浦明平集 (戦後文学エッセイ選)

杉浦明平集 (戦後文学エッセイ選)