夕方の澄んだ晴れた東の空に、月が昇っている。十三夜の月かな。とても美しい月である。
蕪村の句に、「五六升(しょう)芋(いも)煮る坊の月見かな」。
NHKラジオ深夜便の今月(10月)の「読書で豊かに」は担当が明石勇アナウンサーで、ゲストが植島啓司さんであった。
植島さんから三冊の本が紹介された。
一冊目は、田中真知著『孤独な鳥はやさしくうたう』(旅行人)。
・・・土地じゃないということですね。田中真知さんはモンゴルだとかマダガスカルとかバルセロナとか、いろいろ行ってもあんまり観光、場所にこだわった文章ではないですね。そこにいるひととの会話を通じてですね、その場所のなんかイメージが浮かび上がってくる。非常に見事な文章だと思いますね。
明石 今の奥さんに出会うところなんかちょっと小説を読んでるような感じですね。「追いかけてバルセロナ」というタイトルで。
植島 これは本当に見事な作品ですね。短いのもいいですね。ひとつひとつ短いので非常に読みやすいですし。
明石 そしてなんか必ず落ちといいますか、落としどころがある書き方をされてね。
この本には世界中をいろいろ旅行をされた経験が書かれていて、世界のひとびとがどんな暮らしをしているかを見せてくれていて、冒険心というものを読者に満足させてくれる本ですね。といった話を聴いた。
二冊目は、北原白秋著『フレップ・トリップ』(岩波文庫)。
明石 植島さんは白秋、とても好きなんだそうで?
植島 ぼくが特に好きなのは童謡なんですが。
半世紀以上も前に出た本でこれを機会に韻文の楽しさリズム、音の楽しさが味わえるかと、この本を選んでみました。雨降りなんか、ピチピチ、チャプチャプ、ランランラン。
なかなかトラブルの多い人だったようで、姦通罪で逮捕されたり離婚したり事業に失敗してと、苦渋の年月1910年から20年代がありまして、そこをちょうどくぐり抜けたばっかりの本で、明るい本ですね。
九州の柳川出身の白秋の北方志向の旅、樺太(カラフト)へ旅行したときの詩。
初めて見る世界へ入っていく驚きあこがれの地、文体が踊っていますが・・・。
いろんな人がこの北原白秋という大河から出て来たように思います。
三冊目は、叶恭子著『トリオリズム』(小学館文庫)。
彼女の読者は若い男の子よりは若い女の子ではないでしょうか。
なかなか文章を書くときのいさぎよさためらいがない。
書き物としてたくみだと思いますね。読み応えのある本(笑)でした。といった談話があってお仕舞いになる。
次回の11月9日の「読書で豊かに」のゲストは阿部日向子さんで、担当は宇田川清江アナウンサーになる予定です。
- 作者: 北原白秋
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