エリック・ロメール監督の『三重スパイ』

 エリック・ロメール監督の映画『三重スパイ』(2003年、フランス、115分、カラー)を観る。
 日仏交流150周年記念「フランス映画の秘宝」と題して、いずれも日本未公開作だ。見る機会のなかったフランス映画の世界をスクリーンで堪能できたのはよかった。
 いずれも傑作ぞろい。これらの映画を選んだ方々に感謝します。

 エリック・ロメールの描く女性は魅力的な輝きがある。
 冒頭、1936年のフランスの総選挙のニュース映画から始まる。
人民戦線政府が成立した政治情勢のなかを、帝政ロシア軍の将校の夫(セルジュ・レンコ )と画家のギリシャ人の妻(カテリーナ・ディダスカル)がパリに亡命している。二人には子供がいない。
 二人の住んでいるアパートの上階に共産党員夫婦がいて、その八歳くらいの女の子の肖像画を妻が描いたことで親しくなる。
 革命ロシアに対抗する亡命帝政ロシア軍のパリ組織に属している夫は、秘密の工作の任務でベルギーへ出かけると言っていたが、ベルリンで知人に街頭にいたのを目撃されたという話を妻は聞き夫に不審を抱く。
 夫は、革命ロシアの赤軍兵学校へリクルートされかかっている。高い地位と名誉を得られるという口実。
 一方、亡命帝政ロシア軍のパリ組織にいるということで、仲間を裏切っているという意識、そして妻を欺き騙しているということもある。
 夫は妻との間でも本心を隠し、騙し、利用し、任務に邁進しているのだが、組織の「会長」と呼ばれる要人と会うという約束の場所で、夫と会長が会っていた時に何者かに「会長」が誘拐されてしまう。
 組織からその事件の手引きをしたと追及され、身の危険を感じた夫は妻からも姿を消す。
 残された病弱であった妻も共犯とみなされ、裁判で有罪になり服役するもすぐに病気で亡くなってしまう。
 夫の二重スパイ活動の非情さに巻き込まれ無罪にもかかわらず亡くなるギリシャ人の画家の妻が哀れだ。 
 ナレーションだが、夫はスペインの国際旅団へ送り込まれ現地で処刑されたもようだ・・・・。
 終わりに1940年6月、フランスのパリがドイツ軍に占領されて、市民が南仏へと脱出する様子のニュース映画が映し出され、そして、ドイツ占領下のパリで二人の住んでいたアパートに盗聴マイクが部屋から発見される模様が映し出される。
 上階に共産党員夫婦が住んでいた部屋との間で。