『貸間あり』

ヒドリガモ

 川の岸辺の浅瀬に渡り鳥がいた。海草をついばんでいるヒドリガモだった。
 「名作映画 川島雄三監督特集」で、『貸間あり』(1959年、宝塚映画、112分、白黒)を観た。映像文化ライブラリーで、観客は35人ほど。原作は井伏鱒二の小説。脚本は川島雄三藤本義一である。
 冒頭に、大阪の本屋が出てくる。
 天牛書店という本屋である。
 遠くに通天閣が見える高台にある、賄(まかな)い付きのアパートの住民が繰り広げる物語だが、その住人の男女が巻き起こす騒動が見ものだった。可笑しくて笑う。面白かった。
 出演はフランキー堺淡島千景浪花千栄子桂小金治市原悦子小沢昭一乙羽信子藤木悠益田喜頓などで、藤本義一川島雄三の共同脚色が光っている。撮影もいい。
 アパートの住人の賄い婆さん(浪花千栄子)が、やり手で愛嬌があって懐かしい演技だった。
 江藤という広島弁をしゃべる学生(小沢昭一)が、与田五郎(フランキー堺)の部屋へ持って来る酒や味噌で、酒が「酔心」だった。三原の酒。味噌は府中味噌だろう。井伏鱒二が福山出身だから。
 陶芸家の津山ユミ子(淡島千景)だが、映画のなかのユミ子の作品は八木一夫の陶芸作品ではないかしら。どうもそんな気がするんだが・・・。
 映画の最後はミツバチのささやきどころではなく、ぶんぶんとミツバチの乱舞する光景となり、場面が切り替わって、高台から見える通天閣と大阪の街が一面に広がり、次の文字がパッと出る。
 貸間あり おしまい