川島雄三監督の『花影』

3月プログラム

 今年が生誕100年となる作家の一人、大岡昇平の小説を映画化した川島雄三監督の『花影』(1961年、東京映画、99分、カラー)を、映像文化ライブラリーで観た。
 「名作映画 川島雄三監督特集」で上映しているのだ。中高年の観客が多い。いい雰囲気。
 大岡昇平の小説『花影』(かえい)を映画化した作品で、池内淳子の代表作。
 銀座のバーで働く葉子を池内淳子が演じている。
 バーに集まってくる男たちを、今は落ちぶれた美術評論家の高島を佐野周二、松崎という大学教授を池部良、清水というテレビのプロデューサーを高島忠夫、畑という弁護士を有島一郎甲府の葡萄酒会社を継いで今は社長の野方を三橋達也が共演している。
 美術評論家の高島は骨董に詳しく売買などもしている。戦前の銀座のバーの名前でルパンという店が話題になる場面がある。
 《確かな愛を得られず生きる希望を失った葉子は、ついに死を選ぶ。》(「3月プログラム」より)
 葉子の元バーの同僚で、今はバーのマダムの潤子を山岡久乃が、湯河原の旅館の女将のお米を淡島千景が脇役で渋い役どころを熱演している。
 最後のほうで、夜桜見物を葉子がするシーンが見事な美しさである。
 ふと、スタンダールの恋愛論の影響があるのかもしれないと思う。
 後の、戦争体験に触れた大岡昇平の作品があるけれど、もうひとつ別の面から大岡昇平の文学を振り返るのに、この映画は興味深い。