『かくも長き不在』

 1964年のキネマ旬報ベストテン第1位のアンリ・コルピ監督の映画『かくも長き不在』(1960年、フランス、98分、白黒、シネスコ)をサロンシネマ1で観る。デジタルマスター版。
 一週間限定の上映の初日に出かけた。脚本にマルグリット・デュラスとジェラール・ジャルロ。
 パリでカフェを経営しているテレーズ(アリダ・ヴァリ)は店の前を通り過ぎる浮浪者(ジョルジュ・ウィルソン)が気になっている。
 なぜかといえば、ドイツとの戦争のあった16年前に行方不明になった夫のアルベールに似ているからなのだった。
 テレーズはセーヌ川に沿った岸辺近くに小屋を立て住んでいるその男を探りに行く。男は、記憶喪失で過去を忘れているのだった。
 テレーズは男に是非、店の前を通りかかったら寄ってくれと言うのだった。
 季節はパリの人々がヴァカンスに出かける頃で、テレーズもそろそろ田舎へ帰る潮時なのだが、パリにとどまりアルベールの家族を二人呼び寄せ、浮浪者の男がアルベールかどうか判断して貰おうと男を食事に店に誘ったのだった。アルベールの親戚の二人は、どちらとも判断しかねる。
 ジュークボックスの音楽と歌を聴き、記憶喪失の男とテレーズはダンスを踊るのだった。
 晩餐が終わった後、店を出て夜道を帰る男に「アルベール!」とテレーズは呼びかけた。
 男は振り向かないで歩きつづける。店の近所の人々も「アルベール!」と呼びかけた。
 呼びかけに男は両手を上に挙げてたちどまったが、駆け出して去って行く。
 男を追いかける近所の人たち、暗い道路を走る男、向こうからクルマのライトがやって来る。
 戦争の遺した見えない傷跡を深く静かに描いている。とても印象的なラストであった。
 脚本はアラン・レネ監督の『ヒロシマ・モナムール』のマルグリット・デュラスである。
 映画館から出て余韻に浸っていると、晴れた西の空に高度を下げた金星が輝き、南に明るいシリウスが眺められた。
 予告編で、アレクサンドル・ソクーロフ監督の『チェチェンへ アレクサンドラの旅』などを観る。