桃花祭とアニメ

蘇利古

 4月15日の夕方、フェリーで宮島に渡る。
 厳島神社の桃花祭の舞楽があるのだ。帰りが遅くなるので、参道のやまだ屋で、もみじ饅頭を買っておいた。
 参道と千畳閣の間の斜面を鹿の群れが疾走していた。八重桜と枝垂れ桜が満開で見頃だ。
 干潮だったので、大鳥居まで歩いて行ってみた。大鳥居の下を潜って沖のほうまでどんどん歩き回れる。
 遠く厳島神社の本殿の方から曲が演奏され出した。あっ、始まった。
 急いで参道に戻り、本殿へ向かった。
 神社の入り口から暗い回廊をたどり、本殿へ。時は6時半。
 高舞台を取り囲んで平舞台に人垣ができている。萌黄(もえぎ)色の装束を身につけた舞人が高舞台(国宝)で舞っている。振鉾(えんぶ)の一人舞である。
 左方舞、右方舞のうち右方舞から観る。つづいて二人舞。
 日没でまだ明るい。萬歳楽(まんざいらく)、延喜楽(えんぎらく)と四人舞がつづく。
 次第に暗くなる。空に星が見えはじめた。
 神官が二人平舞台にあらわれて、高舞台に上がり桃の花を本殿へそろりそろりと献花する。
 そのあいだ見物客と言葉を交わしたりする。
 スイスのフランス語圏(ジュネーブローザンヌ)からの観光客の夫婦がいた。
 宮崎駿のアニメ・ファンのようだった。
 いまジャック・ドゥミの映画を映画館で『ロシュフォールの恋人たち』と『シェルブールの雨傘』を上映しているよというと、驚いたようだった。
 蘇利古(そりこ)のはじまる前に、宮崎駿のアニメで『千と千尋の神隠し』の仮面と蘇利古(そりこ)の仮面が似ていることを話す。
 蘇利古は紙の四角な雑面(ぞうめん)を付けて舞う。不思議な仮面だ。
 散手(さんじゅ)、貴徳(きとく)、蘭陵王(らんりょうおう)の一人舞が見ごたえがあった。勇壮でしかも気品がある。
 最後の納曽利(なそり)は、二人舞なのだが、今夜は一人が舞っているのだった。どうしたのだろう?
 舞楽の最後は、長慶子(ちょうげいし)という曲が演奏されるのを聴きながら帰路に着いた。