入梅と犬

 梅雨に入った。雑節では、六月十一日が入梅(にゅうばい)である。
 傘を持って、電車に乗り込んで空いていた座席に腰を下ろす。
 右隣にねずみ色と黒の二色の布のバッグを膝の上に抱えている女の人がいた。
 大きさは縦三〇センチで横四〇センチほどだろうか。
 何気なく横目でバッグの方を見ると、ジッパーの開いたところから細長い鼻が伸びていた。黒と茶色の毛並みの犬が首を出して、車内を眺めているのだった。
 「犬ですか?」
 「ええ、犬です。」
 バッグの中から首を伸ばしている犬と飼い主が、なんとなく似ているような気がする。
 なにごともなく下車する。
 4月の新刊で、中公新書に犬と人のいる文学を引用紹介している小山慶太著『犬と人のいる文学誌』が面白い。夏目漱石が猫よりも犬が好きだったことなどエピソードが読める。
 他に、山田稔の『コーマルタン界隈』から犬と飼い主の話なども絶品。

犬と人のいる文学誌 (中公新書)

犬と人のいる文学誌 (中公新書)