岸根行(きしねゆく)帆はおそろしき若葉かな

ナツメの実

 街路樹のナツメの実が大きくなっていた。
 つい先日、六ミリほどの花が咲いていたが、目立たない黄緑色の花であった。果実はまだ緑色で葉の色と同じだ。十五ミリほどの大きさ。保護色であまりで目立たない。
 赤褐色に熟すと遠くからでもきわだって分かる。

 クロウメモドキ科の落葉高木。葉は卵形で、三本の脈が目立ち、互生する。夏、黄緑色の小花をつけ、楕円形の実を結び、暗赤褐色に熟す。実は食用に、また漢方で乾燥させたものを大棗(たいそう)といい、強壮薬に用いる。中国北部の原産。  『大辞泉

 蕪村の句に、「岸根行(きしねゆく)帆はおそろしき若葉かな」。
 朝日新聞の連載コラム、蓮實重彦「私の収穫」の第三回「今日から秋だな」を読む。
 印象的なところをメモする。

 熱帯地方で四年に及ぶ軍隊生活と捕虜生活を送ってきたのだから、父が東京の自宅の茶の間に漂う秋の気配にとりわけ敏感だったのはよくわかる。ただ、父とはその後数え切れぬほどの言葉を交わしているはずなのに、父を失ってかなりの歳月がたついま、敗戦直後にその口からもれた、今日から秋だなというごく短い言葉が鮮やかに記憶に残っているのはなぜなのだろう。