『暁の脱走』

 26日、映像文化ライブラリーに寄り、谷口千吉監督の映画『暁の脱走』(1950年、新東宝、110分、白黒)を観る。
 田村泰次郎の『春婦伝』が原作。谷口千吉黒澤明の脚色だ。観客が何時もより多い。
 ホール内で「60年前の映画だよ。」と言う声がしきりに聞こえて来る。
 中国の戦線で日本軍の守備している城塞都市を舞台にして、山道を超えてはるばるやって来た内地からの慰問団、途中の山道が爆破され不通になったため帰れなくなった慰問団の歌手の晴美(山口淑子)と兵士の三上上等兵池部良)との悲恋。
 映画は冒頭、三上上等兵と晴美とが前線から戻って来る部隊に混じって城塞都市に帰って来るところから始まる。二人は敵の捕虜になっていたのだが、戻って来ることになったのだ。
 そして、戻って来てからの軍での仕打ちが二人の運命を変えていく。
 軍法会議で敵の捕虜になったことから営倉入りしていた三上だが、営倉から脱走して晴美とともに二人で城外へ逃げて行くのだった。
 二人の仲をねたむ三上の上官の副官(小沢栄)が、脱走する二人を撃てと命令を出しても部下が撃たないので、自分が機関銃で二人を狙って城壁の上から撃ちつづけるラストのシーンが圧巻である。憎々しいまでの小沢栄(小沢栄太郎)の演技、悪役ぶりが凄い。
 エピソードをひとつ、敵との戦闘で負傷して横たわる三上を探しに城外へ出た晴美が見つけて、大地に二人並んで夜空の星に向き合うシーンがあり、流れ星がひとつ流れる。