『ロンドンの味』

サザンカ

 サザンカの花が街路樹の生垣に咲いていた。冬の風物詩である。
 日が暮れると東北東に、もうすぐ満月を迎える月が昇って来ていた。滑らかな川の水面にも月が白くゆらめいて映っているのだった。

《「さんさか」の音変化》ツバキ科の常緑小高木。九州・四国の山地に自生。葉は楕円形で両端がとがる。晩秋のころ白い花をつけ、散るときは花びらがばらばらに落ちる。種子から油をとり、材で器物を作る。園芸・観賞用としても栽培され、赤花・八重咲きなどの品種がある。  『大辞泉

 吉田健一未収録エッセイ『ロンドンの味』(講談社文芸文庫)島内裕子編に所収の「姫路から博多まで」を読んだ。

 こういう旅行には、どうしても夜汽車を利用しなければならないのは苦手である。併し日程からいって仕方がないことで、銀座でそのわびしさを消す時間を適当に過してから、東京発午後九時の「安芸」(あき)に乗り込んだ。同行の諸氏については、ここでは省略する。旅行そのものについて書くのが目的で、筆者を初めとして誰も高見順氏とか、檀一雄氏とか、小川哲男氏とかいうような人物と始終、旅行する訳ではないし、又それが望めもしないからである。  28〜29
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 韜晦趣味のような文章だが、高見順や、檀一雄、小川哲男の各氏と同行した旅行が吉田健一にあったのだろう。たとえば、講演旅行とか・・・。
 小川哲男とは懐かしい名前だ。

ロンドンの味 吉田健一未収録エッセイ (講談社文芸文庫)

ロンドンの味 吉田健一未収録エッセイ (講談社文芸文庫)