師走の読書

 古井由吉著『人生の色気』(新潮社)を、先週から読み出した。枕本で少しづつ読む。ゆっくりなので年を越しても読むことになりそうだ。
 28日の朝日新聞斉藤美奈子の「文芸時評」が「出発点と到達点」(アナーキーな色気が熱い)と題して、今月の3点として浅尾大輔『ブルーシート』、大江健三郎『水死』、古井由吉『人生の色気』を論じていた。

複数の聞き手を前にして自らの人生と時代の精神を語り下ろしたこの本は、難解といわれる古井由吉の作品の補強にはならないが、小説それ自体の過去と現在を考えるには格好の一冊だ。
 〈手術をしたり、長いこと病気したりしていると、空間の縦軸と横軸が逆転するんです。これはアナーキーだと思いました。(略)老人はアナーキーになっているわけです〉という一節を読んで、ふと思った。
 あ、そうか。『水死』はアナーキーな小説なのだ。そしてもちろん「晩年の仕事」のふりをしながら『人生の色気』なんていう本をシレッと出す古井由吉も十分アナーキーである。

ブルーシート水死 (100周年書き下ろし)人生の色気