映画『清水港代参夢道中』

清水港代参夢道中

「名作映画 マキノ雅弘監督特集」からマキノ正博監督『清水港代参夢道中』(「続清水港」改題短縮版)(1940年、日活、89分、白黒)を観る。脚本は小國英雄(小国英雄)。
 芝居の演出家石田(片岡千恵蔵)が、自分の演出している森の石松の芝居の稽古中に、自分の思うような演技を役者がやってくれないので癇癪を起こしてしまう。それをなだめる秘書文子(轟夕起子)と石田は衝突してしまい、喧嘩別れをしてしまう。
 劇場の照明係が浪曲師(広沢虎造)で、浪曲がセリフがわりになっている。
 さて、石田が眠りに落ちて目が覚めると、なんと清水港で自分が森の石松になっているのだった。
 現代から江戸時代へタイムスリップしてしまった。
 それに違和感を抱きながらも、次郎長から自分の替わりに金比羅参りに代参して行ってくれと頼まれる。その旅のお供にお文(轟夕起子=秘書文子とお文の一人二役)と連れ立って行く羽目になる。
 浪曲森の石松金比羅代参の話を描いている。
 三十石船の寿司喰いねえの江戸っ子を浪曲師の広沢虎造が演じて、片岡千恵蔵の石松と広沢虎造の江戸っ子の二人が三十石船の船内で、浪曲の筋書き通りに話が運ぶ。
 浪曲の世界と映画の世界が軽々と越境して溶け合ったような絶妙な展開が楽しい。
 昔の子分仲間(志村喬)の今は貧乏をしている夫婦が、森の石松らの一行を歓待する場面での志村の滑稽なやり取りも可笑しい。館内で笑い声が上がる。志村喬のコメディアンぶりが上手い。
 娯楽映画に徹したシュールでナンセンスな傑作である。
 チャンバラの部分もいい。片岡千恵蔵の盛りの時期の映画といえようか。轟夕起子の笑顔も印象的だ。